0 【こどおじは当たり前】中国、台湾、韓国、シンガポールに見る実家暮らし事情 『同居=親孝行』という認識が社会的に広く受け入れられている
アジアの主要都市に暮らす若者の多くが、成人後も親と同居を続けている。日本では「こどおじ(実家暮らしの成人男性)」という揶揄が広まり、独立していないことが社会的に否定的な意味を帯びる。しかし、視点を広げれば、実家暮らしは経済合理性や文化的背景に基づく「当たり前の選択」だ。日本、中国、台湾、韓国、シンガポール。5つの国・地域の事情を見てみよう。

日本 独立を重んじる社会

日本では、都市部を中心に「成人後の一人暮らし」が自立の証とされる文化が根強い。東京23区のワンルーム賃料は月7〜9万円。2023年の大卒初任給は平均22万円前後であり、収入の3〜4割が住居費に消える計算だ。結婚平均年齢は男性31.1歳、女性29.7歳。地方では実家暮らしが一般的だが、大都市圏では「一人暮らし経験がない=未熟」と見られる傾向がある。「こどおじ」という言葉が生まれた背景には、経済だけでなく価値観の問題もある。

中国 家族中心主義と住宅価格の壁

中国では、実家暮らしが当然のように受け入れられている。北京や上海の住宅価格は平米単価で10〜20万元(約200万〜400万円)に達し、都市部の賃貸も月4,000〜8,000元(約9〜18万円)と高額だ。大卒初任給は6,000〜8,000元(約13万〜18万円)程度で、一人暮らしには厳しい水準といえる。結婚平均年齢は都市部で男性30歳前後、女性28歳前後。結婚時には親が住宅を用意するのが一般的で、結婚して初めて「独立」と見なされる。若者が親と同居することは「親不孝ではなく親孝行」という文化観が根底にある。

台湾 合理性と親孝行の共存

台湾でも、多くの若者が結婚まで実家で暮らす。台北市のワンルーム賃料は約1.2万台湾ドル(約6万円)、大卒初任給は約3.2万TWD(約15万円)と、独立生活は負担が重い。結婚平均年齢は男性32.1歳、女性30.2歳。経済的理由に加え、家族を大切にする文化があり、「同居=親孝行」という認識が社会的に広く受け入れられている。日本のように「実家暮らし=甘え」というレッテルは存在しない。

韓国 競争社会が生む「合理的な同居」

韓国の若者の6割以上が親元で暮らす。ソウルのワンルーム賃料は月50〜80万ウォン(約5〜8万円)、賃貸契約には高額の保証金「チョンセ」が必要だ。大卒初任給は約260万ウォン(約29万円)。結婚平均年齢は男性33.7歳、女性31.3歳と高く、住宅費の負担と競争社会のプレッシャーから、実家暮らしは「将来への投資」と見なされている。社会全体もそれを合理的な選択として受け止めている。


シンガポール 制度が実家暮らしを前提に

シンガポールは高所得国だが、住宅制度が独特だ。国民の約8割がHDB(公営住宅)に住むが、独身者が自分名義で購入できるのは35歳以上に限られる。民間賃貸はワンルームで月1,500〜2,500シンガポールドル(約17万〜28万円)、初任給は約3,800SGD(約42万円)。結婚平均年齢は男性30.4歳、女性28.8歳。制度的に結婚まで実家暮らしが基本であり、「こどおじ」という発想は存在しない。

同じ行動、異なる価値

実家暮らしを「甘え」と見る日本、制度・経済・文化が支える他のアジア諸国。同じ「親と暮らす」という選択肢でも、その背景と評価は大きく異なる。社会構造の違いを理解せずに「こどおじ」を一概に否定することは、国際的視点を欠いた判断といえる。


参考
https://www.propertyguru.com.sg/property-guides/hdb-rental-prices-singapore-29827
https://www.china-admissions.com/cost-of-living-in-beijing-china/
https://www.numbeo.com/cost-of-living/in/Taipei
https://www.numbeo.com/cost-of-living/in/Seoul
https://www.numbeo.com/cost-of-living/country_result.jsp?country=China
https://blog.gaijinpot.com/how-much-is-the-average-rent-in-tokyo/
https://www.globalpropertyguide.com/asia/taiwan/rent
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